ビジョン

ちょっと興味があって将棋の矢内理絵子女流名人について調べてたんですが、この↓インタビュー見るとすごいしっかりしてるというか、自分の将棋のことだけでなく、将棋界、特に女流将棋の将来のことを憂い、考え、実行してるんだなぁ…と感心してしまいました。
イノベイター(変革者)たちの横顔 第29回 将棋の業界革新へヤッピーの挑戦

自分が矢内さんに興味を持ったのは、プロレスラー吉江豊選手や、市井舞選手なんかが醸し出してる「持って生まれた天性の無理してないポジティブなオーラ」みたいなモノを感じたからなんですが、今の対局中以外どの写真を見てもニコニコしてるのとは裏腹に中学生くらいまで登校拒否寸前の酷いいじめにあったとか、高校卒業の年にお母さんが亡くなって一人っ子で実家暮らしのため父親の身の回りの世話などしながら棋士生活をしてるとか。
そのあと1年くらい経って不勉強のツケが徐々に出てきて成績が下降(といっても「勝率が5割スレスレ」くらいまでしか下がらないのですから、そこも「さすが」なのですが)してきたときに
成績不振については、特に焦りは感じなかったという。「原因は明白でしたからね」。
こう思えてしまうというのがすごい。自分は無理だわ…。

その後、NHK BS2囲碁将棋ジャーナルのMCをして
「司会をやるようになってから、色んな棋士の方々との交流が生まれ、その中で、棋士の人物像とか業界のドラマ性を番組で伝えられないだろうかって考えるようになりました。ゴルフとか他の種目では、ごく普通に行われていることが将棋の世界にはないことに気がついたんです」
こういうところに気づくのもすごい。

えぇ、なんつーか、すごいしか言ってないですが、彼女の言ってることは今のあらゆるエンターテインメント業界が抱えている問題の根っこをかなり鋭く指摘してると思うんですわ。自分の好きなプロレスなんかも含め、将棋と置き換えるだけでそのまま当てはまることが多いと思えます。

女流名人獲得後…
「対局が終わった後の感情のコントロールも大事だって思いました。負けた後っていうのは、その敗戦記事が翌日だけでなく、何日も経ってからもマスコミに出たりすることもあり、心理的に尾を曳きやすい面があります。そういうときって、家の中のいろんなものに当り散らしたい気分になるんですが、私は勝ち負けで激情に駆られる自分に耐えられなくなってしまったんです。マイナスのイメージを残すのは、次の対局の不安要素になりますので、意識的に切り捨てるようにしていったんです」

女流棋士の処遇というか不安定さ…
「そもそも女流棋士には給料がないですし、厚生年金もありません。収入源は対局料ですが、その対局自体が少なく、年収100万円に満たないプロもいるのが現実です」
対局料をギャラに置き換えればそのままプロレスとか、小演劇にハマりますよねえ。

この辺↓はプロレスとほぼ同じですねぇ…
 将棋人口そのものについても、全体としては微増であるものの、子どもか中高年かという構成になっていて、20代から30代がごっそり抜けている上に、そもそも女性のファン層がいないという特殊な構造になっている。

LPSA分裂騒動のときの話…
2006年3月ごろから女流棋士の別団体を作る動きが活発化していたのである。女流棋士界の大スターである矢内さんも当然のように、設立準備委員という責務を担うことになり、マスコミからの取材を受ける立場になったが、しかし彼女のスタンスはむしろ女流名人として職責を果たすことに向かっていた。すなわち、世間の雑音をよそに自らの実力を高め、タイトルを防衛することであった。

この分離独立騒動では、結局、矢内さんは留まる立場を取った。彼女は言う。「いい将棋を指してファンの方々に歓んでいただくのが今の私の仕事です」。

矢内さんのビジョンは以下の4つだそうです。
1)将棋を指さない人でも応援したいというファンを獲得すること
2)全国の小・中・高校さらには世界各国に行って将棋を教えること
3)女性の将棋ファンを増やすこと
4)スポンサー・メリットを作ってあげること

そしてタイトルホルダーの立ち位置というかベクトルについて。
矢内さんのビジョンを聞いていると、その具体性に驚かされる。それだけ日々、真剣かつ誠実に業界革新を考えている証拠である。しかし彼女は言う。「タイトルホルダーはそうした活動に従事すべきでないと考えています。今の私はとにかく強くなって良い将棋を指すことです」
プロレスじゃタイトルホルダーが多人数タッグで適当な試合しかしないなんて、日常茶飯事ですしのー。

まぁ、ほとんど引用だったんですが、あまりにプロレス界が抱えてる問題とかぶっていて、それに対するビジョンが示されてたんで、感心しきり、でした。

その矢内女流名人、今日、第1局を先勝したあとの2連敗で負けが先行していた女流名人位戦5番勝負の第4局を制し、タイに戻すと同時に防衛へ逆王手とのこと、第5局は明日、防衛できるといいですねぇ…。